ダブルベッド


「いらねーよ、愛なんて」

 充は強い口調で宣言した。

「そんなもん、死んだそいつにくれてやる」

 桃香は黙って充を見る。

 目には微かに涙が溜まり始めていた。

「あんたが誰を愛してるかより、あんたが生きてるかどうかのほうがよっぽど大事なんだよ」

 桃香は自らが切った手首をキュッと握る。

 充はその手を放すように、自らの手を桃香に絡ませた。

「遅かれ早かれ、彼のところに行くんだ。でも、もうちょっと待って」

 桃香の目からとうとう涙が漏れた。

「捨てかけた命なら、俺にくれないか?」