充は全速力で走る。 みんなが止める声も聞かず、荷物も置いたまま、財布と携帯だけポケットに入れて。 エレベーターを待っていられず、非常階段を駆け降りる。 取っていたアポのことも全て吹き飛んでいた。 走りながらICカードの入っている財布を取り出し、 改札の機械にぶつけるように当てて駅のホームへ。 残暑で汗が噴き出すが、タオルは鞄の中である。 そしてその鞄は会社に置いてきてしまった。 だけど充には、汗なんかに構っている余裕などない。 急がなければ――……!