「帰って」 小さい体を更に小さく丸めたまま、桃香ははっきりこう言った。 「池田さ……」 「今日は帰って」 今、桃香の頭の中は彼のことでいっぱいだ。 自分に入り込む隙はないし、無理に入り込んでも逆効果。 そう察した充は大人しく従うことにした。 「わかったよ」 充は立ち上がり、一瞬桃香の髪を撫でで部屋を出た。 靴を履き、ドアを開ける。 切ない音がやけに響き、夜風がツンと沁みた。