充の胸はズンズン重くなっていった。 生きている男であれば、まだ良かった。 しかし、死人には手が届かない。 彼は桃香の中でどんどん美しい思い出になっていく。 美しい思い出だけが抽出されていくのだ。 「あんな幸せをくれる人、涼太しかいないの」 左手を包んで胸に押し付けた桃香は、何かにすがるように強く瞳を閉じた。 「でも、その彼は……もういないんだろ」 桃香は沈黙した。 「だけど、池田さん。あんたはまだ生きてる。これからも、生きる。彼とは一緒にいられない!」