ダブルベッド


 握った手は、握り返してくることはなかった。

「涼太! やだ! ダメ! 眠っちゃダメ!」

 どんなに強く握っても、どんなに大きな声で呼び掛けても。

 彼はもう、応えてくれなかった。

「涼太! やだやだ! ねぇ、こっち見てよ」

 体に触ると、ドロッとした。

 温かいというよりは、熱かった。

 ヌルッとして、ベタベタして、ものすごいにおいがした。

 生命のにおいがした。

 彼の命は、彼の体からなくなっていたの。

「いや――……!」

 救急車が来たことにも気付かないくらい泣き叫んだ。