暫くして、微かに桃香が動いた。 「木下くん」 充だけに聞こえるような、小さな小さな声だった。 「ん?」 同じくらい小さな声で返す。 「目を閉じたままで、聞いてくれる?」 「うん」 桃香はまた少し動いて、体制を整える。 二人分の熱が篭ったシーツから、足を出したようだ。 「あたしね、結婚する予定だったの――……」 小さな声で、語り出す。 小さな体に抱え込んだ、美しく悲しい思い出を。 慈しむように。 静かに、ゆっくりと。 第四章