十分?
何をもって十分だと言っているのか、充にはわからなかった。
丸くなった桃香がグスッと鼻をすする。
「池田さん」
呼びかけてもこちらを向こうとはしない。
だから充は丸まっている彼女を腕で包み、震える肩を宥める。
かける言葉はやっぱり見つからない。
「ねえ、木下くん」
「ん?」
「ちょっと、眠くなってきた」
「うん」
充は先に立ち上がり、桃香の手を引いた。
そしてリモコンでエアコンを切る。
手を繋いだまま、リビングに繋がる寝室のドアを開ける。
蒸し暑い空気と共に、視界にベッドが飛び込んできた。



