「まだ、なんにも言われてないし、言ってないし」

 窓から入ってきた風に吹かれた長い髪を、後ろに払って言う。「ふーん」と言った友達の髪も揺らして行った風。


 今朝、駅で待ち合わせした。冬海と。冬海は眠そうで、あくびばっかり。あたしは家から持ってきた紙パックの豆乳(紅茶味)を渡した。

「お昼にでも飲んだら」

 ぱぁっと表情を明るくした冬海は、数秒でストローを突き刺し飲み干した。

「えー」

「お腹空いてた! ありがとー」

 あーなにその笑顔。わーなんだ、こんなので良ければ明日も……。


「思い出し笑い! アキラ!」

 顔がニヤニヤしてたのを、梓と美由樹に突っ込まれる。


 眠い気持ちで、でも朝の風と光は爽やかで。他の生徒の声とかがなんだか遠くに聞こえるような。
 2人並んで居るのさえも愛おしい。こんな事も、忘れてたな。

 傷があるのは自覚してる。細かい、たくさんある小さい傷は、冬海の手で塞がるだろうか。