「あ、待って」
彼が呼びとめたのは、私じゃなく、お姉ちゃんの方だ。
「今度、食べに来てください」
「え?ああ。はぁい」
ほろ酔いのお姉ちゃんは、
あくまでも適当な返事を返すから、
私は頭を何度も下げて、家の中へと入った。
当時のお姉ちゃんは、
今の旦那であるお義兄さんと婚約中だった。
お義兄さんはその時、北海道に1年の期間限定で赴任していて、
こっちに戻ってきたら結婚しようという約束をしていた。
だから、お姉ちゃんが
彼の言葉に本気になるなんて
私はこれっぽっちも思ってなかった。
なのに。
お姉ちゃんは私のシフトじゃない日にバイト先に行き、
彼と何度か話をしたらしい。
気がついた時には、
彼とお姉ちゃんはすでに深い仲になっていた。
……お姉ちゃんは、浮気したんだ。