エンジェルキスは、閉める事にした。

自殺したジュリが未成年だった事がマスコミに面白おかしく書かれた為、営業を続けて行く事が事実上不可能になったからだ。

警察のその後の調べでは、予め、VIP会員の中に居た司法関係者の力で、何とかその事実は無かったという調書にした。

面接には来たが、未成年と店側が判ったので、雇わなかったという事にしたのである。

店の顧客データや、在籍していた未成年者の女の子に関しては、調べが入る前に処分する事が出来た。

尤も、仮に顧客データを警察が押収してたとしても、その顔触れに腰を引いたであろう。

警視庁は勿論、警察庁、検察庁、国会議員等、アンタッチャブルな顔触れがずらりと名を連ねていたから、実際は手の出しようが無かった筈だ。

そのせいもあって、所轄の刑事達は竜治に対し、尚更敵愾心を抱いた。

生活安全課、マル暴、それぞれが神崎竜治をいつか自分達の手で、と意識し始めたのである。

竜治にとってジュリの死は、表面上、何事も無く処理出来た。

しかし、それは飽くまでも表面上での事であった。
内面は、本人が思っている以上に、心のバランスが崩れかけていた。

ただ、ジュリの死を何処か非現実的な出来事のように感じていて、実感が湧かないまま、何日も過ごしていた。
何故か、歎き悲しむといった感情が湧いて来ないのである。

ジュリの荷物を整理してみて、その量がボストンバック一つにも満たない事に以外な思いをしたが、そういった事位でしか、ジュリを失ったという実感を得られなかった。

俺は冷たい男なのだろうか……

ジュリを愛しいと感じ、互いの温もりを確かめるかのように、何度も抱き合った筈なのに……

自分の記憶には、すらりと伸びた彼女の肢体は生きているが、ベランダに干されたままの洗濯物を目にする度に、頭の中で甦る場面は、何故か最後に抱いたあの時の事ばかりなのである。

自分の足元で小さく丸まったジュリが、能面のような表情で後始末をしていた姿が何度も何度も現れる。
初めて出会った時の事や、初めて抱いた時の事を、意識して思い起こそうとしたが、それらは淡い光りに包まれてぼんやりとしか頭の中に浮かばず、すぐに消えてしまう。

贈り主を失った腕時計が、テーブルの上に置きっぱなしになっている…