「神崎さん…何故ラストカードを見ないのですか?そんな子供騙しみたいなブラフは、私には通用しないのに。」

「ブラフかどうか確かめたければ、コールすればいい…」

「コールはしません。タップユーを掛けられたその上に、私の残りの現金全てを賭けます。チップを追加しても構いませんね?」

「どうぞお好きに…」

現金で五百万円をセカンドバックから取り出した。

「ヤンさん、特別に5万ドル丁度に交換して上げますよ。」

「そういう気遣いは無用のような気がしますが…すぐにこのチップの全てが私のところに戻って来る事になる筈ですから。」

ヤンは交換されたチップを全てレイズして来た。

「さあ、コール出来るようでしたらして下さい。」

「私もコールはしません…」

ディーラーは、何度も確認するような仕草を竜治に見せ、ヤンの賭け金に対しコールした。

竜治は、無言で最後の10万ドルチップを放った。

「所持金が無ければお貸ししますよ。」

ヤンの表情に少しばかり変化が現れた。

「そこ迄意地を張るならば……」

ヤンは、コールと言うと同時に、伏せカードの三枚をオープンした。

6のカードが二枚……

表と併せ、フォーカードだ。

ギャラリーから大きなどよめきが再び起きた。

フォーカード…

まさか……

竜治の予想以上の手がヤンに入っていた。

万事休すか?

高鳴る心臓の鼓動で、周囲のざわめきが掻き消された。

竜治はゆっくりとラストカードをめくっていった。

ちらりと見えた色が黒い…

スペードかクラブだ。

ヤンに勝つにはスペードのKを引くしかない。

息を止め、半分程めくった。

クラブの5……

終わった……

竜治は大きく深呼吸をし、全てのカードを裏返しにした……。