入所して半年。
何とかトラブルも無く過ごして来たが、同じ部屋の人間と喧嘩をした。
やたら先輩風を吹かす奴で、皆から嫌われていた。
しかし、皆、己が大事だから、仮釈に影響しそうな事は避けていた。
他人との揉め事は、一番避けなければならない。
一日でも多く仮釈を貰うならば……
喧嘩した結果、懲罰…翌春に控えた職業訓練の募集からは外された。
そこから竜治の刑務所での躓きが始まった。
工場や舎房が変わる度に、誰かと揉めた。
相手は大概、ヤクザを気取った、ただのチンピラだった。
気が付いたら、刑務所で七度目の正月を迎えていた。
少年刑務所の規定で、二十六歳を越え、残刑が一年以上ある場合は、残りの刑期を一般の成人刑務所で過ごす事になる。
残刑一年十ヶ月。
竜治は、東京のF刑務所に移送された。
田代とは、そこで知り合った。
同じ工場で、竜治より一ヶ月程後から入って来て、二ヶ月先に出所した。
特にこれといった会話はなかったが、何故か田代の方から出所後の連絡先を教えて行った。
度重なる懲罰の為に、初犯の人間にしては珍しく満期出所になった。
F刑務所の門を朝9時近くに出された。
小さなボストンバックの中には、八年分の虫よけの臭いと黴の臭いが詰まっている。
八年間で手にした金は、高々十万足らず。
懲罰の度に給料が下げられたから、普通の受刑者より格段に少ない。
行く当ても無く、取り敢えず駅近くの喫茶店に飛び込んだ。
出て来たコーヒーの熱さと香、そして、たっぷりバターが塗られた厚焼きのトーストが、八年振りの娑婆を実感させてくれた。

田代の所を頼ったのは、ほんの偶然からだった。
たまたま当ても無く渋谷に出て来た竜治は、道玄坂の風俗店で、店の人間と揉めた。
写真の女とは、似ても似つかないのが出て来た。
刑務所で得た八年分の金から、そんな女に払うのが無性に腹ただしくなった。
いや、女にではなく、単なる性欲の為に人生を削った八年の証をこんな所で使おうとした自分自身に腹が立ったのかも知れない。
トラブルを聞き付けてやって来た地回りのヤクザが、親栄会だった。

出所して早々、ヤクザに袋にされる人生って何なんだ……

口から流れる血を拭いながら、竜治はそんな事を考えた。

その時、事務所に顔を出していたのが田代だった。