二月の肌寒い日に、カジノ・ロワイヤルはオープンした。

普段、閑散とした百軒店の中が、数百人という招待客で賑わっていた。

テレビの深夜番組のレポーターまで来ている。

尤も、これは竜治がテレビ局に金を払って取材に来て貰ったのだが。

澤村の顔で、芸能プロダクションから何人かタレントを呼び、雑誌やテレビに取材をさせた。

「神崎、これだけ派手に宣伝費使って運転資金の方は残ってるのか?」

澤村が心配するのも無理は無かった。
素人目に計算しても、一億という金でここまで出来るだろうかと危惧してしまう。

「大丈夫、計算済みですから。」

実際には、既に預かった一億の殆どを注ぎ込んでいた。

本来、商売を始めるに当たって、運転資金は必ずプールして置かねばならない。
竜治はその常識を無視した。

当分はカップラーメンでも喰ってりゃいいんだ。
間違い無くこの店は当たる…

理屈抜きの確信が竜治にはあった。

暇なニッパチ…
客商売をやる上で、昔からよく耳にする言葉だ。

二月と八月には動くもんじゃない。
じっとしてるのが一番……

しかし、一番暇な時期に流行ったら……

それは、後々とんでもない爆発力を示す。

二月の半ば辺りでその兆候が見え出した。

ディーラーは全員が本場ラスベガス仕込みの金髪女性。
黒服も、黒人や白人の男を雇った。
店の直接の管理は、エニグマの店長を引き抜いて任せた。

ゲームは、ルーレット、ブラックジャック、バカラの他に、本格的なスタッドポーカーも出来るようにした。
更に画期的だったのは、店内の大型モニターに競馬中継を流し、千円単位で勝馬投票が出来るようにした。
一見、競馬のノミ行為と受け取られ兼ねないが、やはり直接換金が無い為、問題にはならなかった。

店の雰囲気をスタイリッシュにした事で、カップルや若者が集まり、流行好きの女性客が集まるようになったお陰で、明るいイメージをこの店に抱いた。

周辺の飲食店にも、竜治の店から零れた客が流れるようになり、金を落として行く。

春の訪れを待つ前に、竜治は澤村に一億の金を持って行った。