そこで一旦話しを区切ると、澤村は煙草に手を延ばした。

竜治がライターを取り出すより早く、河田がシルバーのデュポンを出し、火を点けた。

「マル暴のデコ助が言うには、チンコロした奴がやったんだろうという事だ。」

「………」

澤村の視線はずっと竜治に注がれている。

この視線を絶対外してはならない。
そらすな………

竜治は自分に言い聞かせようとした。

「お前、心当たりは無いか?」

表情を変えずに、その事を否定する。

二、三服しただけて、澤村は煙草を消した。
僅かに残った火種が、灰皿の中で燻り、澤村と竜治の間に一筋の煙りを漂わせた。

「店に尚武会の金田が来たらしいな……」

「…はい。」

「金田からこの前電話があってな……」

話しが変わった。
澤村の眼差しが、急に温和なものに変わった。

「その事をどうして隠してた?」

「隠すも何も、その件は一応その場で済んだ事になったんで…先方も納得して引いてくれましたから、それで…」

「…金田がな、済まん、て言ったんだ。札束目の前に積まれても、他人に頭を下げねえ金田がだぞ…俺は最初何の話しかといろいろ勘繰っちまったよ。」

「………」

「奴がお前の事を褒めてたぞ。いい若い者が居て羨ましいとまで言っていたんだ。事情を知らなかったから、この野郎褒め殺して俺を型に嵌める気か?て思っちまったんだ。それが、そうじゃなく本気でそう言ってると判った時は、勘繰った俺の方が危うく恥かくとこだった。」

「済みませんでした。」

「これからは、些細な事だと自分で思っても、必ず俺に伝えるんだ。事と次第によっちゃあ話しの持って行きようが変わる場合もあるからな。しかし、あの金田に頭を下げさせたんだから、お前もたいしたもんだよ。」

「そんな…買い被りです。澤村さんというバックがついているから、あん時は一歩も引かずにやれたんです。尚武会の人間が帰った後になって、膝がガクガク震えてましたから…」

澤村が再び煙草を取り出し、今度は竜治にも奨めた。
一瞬、竜治は迷ったが手を延ばした。
自分のジッポーで火を点けようとしたら、澤村が金むくのデュポンで火を点けてくれた。そして、

「尚武会の件だが、あれは田代がケツ掻いた事だ…」

と言った…