何時ものように、久美子が出た。

「はぁい。」

はいの返事の時、久美子は少し間延びしたような返事をする。
なんだかのんびりしたような、おおらかさのようなものを感じる。
竜治は、久美子のこの返事の仕方が好きだった。

「神崎です…」

「待ってて、今開けますね。」

何時もは、売り上げを手にして訪れるのだが、今日は違う。

部屋の扉が開いた。

久美子の顔を見た瞬間、竜治は、酔った自分の姿を見せるのではなかったと後悔した。

「…すいません。売り上げを忘れてたのを今になって気付きました。出直して来ます…」

「明日の時に一緒で構わないじゃない。せっかく来たんですもの、上がって珈琲でも飲んで行ったら?」

「はい…でも、澤村さんがいらっしゃらない時におじゃまするのも……」

澤村は昨日から関西の方へ行っている。

「義兄の事なら遠慮する必要無いわ。私には、何時でも竜治さんが来たら、何か喰わせてやれ、なんて言ってる位だから。さ、上がって。」

その言葉を心の何処かで期待していた。

初めて澤村に呼び出されて以来、中に入るのは久し振りの事だ。
長い髪を後ろで無造作に束ねた感じが、竜治にはジュリとは違う魅力を久美子から受けた。

「何時も、こんな遅く迄起きてるんですか?」

「私、赤坂で店をやってるの。今夜は少し早めにお店を閉めたから、一時間位前に帰って来てたのよ。あっ、珈琲より、酔い醒ましならば、紅茶の方がいいと思うけど、どうする?」

「すいません…」

久美子はそれには答えず、キッチンの方で用意をしながら、微笑み返した。

かなり酒臭いんだろうな……

竜治はそんな事を思いながら、つい数時間前の事を振り返っていた。

「何かあったの?」

突然、久美子が聞いて来た。
予期していなかった質問に、竜治はどう答えようかと、言葉が詰まってしまった。

「紅茶にブランデーは?義兄は好きなのよ。」

竜治の様子を察して、久美子はそれ以上深く話しを続けなかった。

「最近の義兄のマイブームは竜治さんみたいよ。」

「え?」

「妬ける位、貴方の話しばかり。」

「はぁ……」

「男同士っていいな…」

俯きながら呟く横顔が、美しかった。