竜治はアモーレのフロントに顔を見られないよう注意しながら、

「すいません、業者の者です。205のお客さんとこに用があるんで…」

「どうぞ。」

この界隈のホテルは、大概デリヘルやデートクラブが出入りしてるから、業者を名乗ると、すんなり中に入れる。

竜治は、防犯カメラのなるべく死角を歩き、階段で二階に上がった。

初めに、非常口の扉を探し、鍵を外した。
そのまま一階の鍵も外し、逃げ道を確保した。

205の前に来ると、ズボンに差してあった鉄筋を抜き、構える。

瞬時に事をやらなければならない。
もたもたしていたら、他の客達に気付かれる。

躊躇しそうになる気持ちを無理矢理押さえ付けて、ドアをノックした。

暫く間があって、中から声がした。

竜治は廊下の壁に張り付くようにして、ドアが開くのを待った。

長い時間のように思われた。

早く出て来い!

豚野郎!

ゆっくりとドアが開いた。

田代の巨体が半分ばかり廊下に現れた。

短い首を精一杯伸ばしてドアの外を伺おうとした瞬間、竜治は、思い切り鉄筋を田代の喉元に打ち当てた。

グエッ!

妙な音を出しながら、田代は後ろ向きにひっくり返った。

直ぐさま部屋に飛び込み、竜治は二度、三度と田代の顔面目掛け、鉄筋を振り下ろした。

最後に後頭部に一撃を食らわすと、田代は完全に気を失っていた。

サイドテーブルにあるセカンドバックから財布を取り、中から現金を抜いた。
バックの隅に、シャブのパケが入っていた。

ポン中治しに暫く娑婆から消えな……

田代のケータイを手にすると、竜治は非常口から逃げた。

幸い、誰にも気付かれていない。

竜治は無我夢中になりながら、ホテル街を走り抜けた。

途中で、田代のケータイから110番をした。

「今、渋谷のラブホテルでシャブの売人がくたばってる。ホテルの名前はアモーレ。その男は向かいのホテルにも宿泊していて、未成年の女を二人連れ込んで乱交パーティーをやらかすところだったみたいだ。その部屋からも葉っぱや薬が出て来る筈だ。急いだ方がいいよ。」

(お宅の名前は?)

相手を無視して電話を切った。

全身の血が一気に熱を下げ、竜治は悪寒を感じた……