静けさを打ち破ったのは、ジュリだった。

奥の待機用の部屋で、事の成り行きを伺っていたジュリは、竜治が殴られた事で気持ちが動転した。

部屋に居合わせていた同僚達の制止を振りほどいて飛び込んで来た。

「リュウちゃんに何すんのよ!」

ジュリの声を聞いて竜治は咄嗟に彼女を抱き止めた。

「やだ、リュウちゃん怪我してる…おじさん達おかしいよ。何も悪い事してないのに殴ったりするなんて…女の子の事だって、自分からちゃんと辞めるって前の店に言ってるのに、辞めさせてくれないだけじゃん…稼がせても貰えず、ひどい時は暇だから俺が客になってやるからって言って、無理矢理店長や従業員にやられちゃうんだよ…そんな店、誰だっていたいと思う訳ないじゃん!」

ジュリは一気にまくし立てながら、泣きじゃくり始めた。
終いには辺りを憚らず大声で泣き出し、まるで幼い子供のようだ。

場の空気が変わった。

「妙な具合でんなァ…まあ、うちとしても澤村はんとこと揉めようとは最初から思おとりまへん。ただ、うちらとしても、こうして話しを持ち掛けられた以上はカッコ付けなあかんのですわ。それが極道ですから……」

「先方が金をくれとか言ってるんですか?」

「そんなもん、向こうも期待はしとりまへん。この程度の事で銭金の話しをしてたら、うちら皆商売繁盛で左団扇になれますわ。」

金田の表情に笑顔が浮かんだ。
おもむろに煙草を取り出すと、竜治にも奨めて煙草をくわえた。
火を差し出す若い男を制し、金田は自分のデュポンを点けた。そして竜治の方に火を差し出した。

「出る杭は打たれる…どの世界でもある事ですが、上に昇ろう思おたら、一度や二度こういう場面に出くわします。神崎さんとおっしゃいましたよね?敵は以外な所に居るもんでっせ。ほな、今日はこれで帰りますわ。神崎いう男の品定めが出来た分、今日は良しとしましょうか。」

そう言うと、金田は懐から分厚い財布を出し、中から無造作に数枚の一万円札を抜き出し、テーブルの上に置いた。

「…これは?」

「若いもんの不始末代です。」

帰り際、金田は今一度竜治の方を向いて、

「アドバイス言うわけやないが、他の店の子が入って来たら、先ず前の店に電話一本入れとけば、面倒にはなりまへん。」

「判りました…」