センター街を突き抜け、東急文化村に出る。
クラブ街の登り坂は、数時間前の喧騒が嘘のように、人っ子一人いない。
もう一本裏手の細い坂道を神泉方向に向かって歩くと、竜治の住むアパートがある。
メゾンとか何とか洒落たカタカナの名前が付いたアパートだが、名前とは似ても似つかない代物だ。
ちょっとカッコ付けた四畳半一間…風呂無し収納無し、一年中陽の当たらない部屋である。
シャワーだけは付いてるのがせめてものの慰め。
無言で階段を昇る竜治の後をジュリは、物珍しそうに辺りを見回しながら付いて来る。
部屋に入るなり、ジュリはこの部屋にもう何度も来た事があるかのように、竜治の万年床に寝転がった。
ローライズの腰辺りから、薄紫色の下着が顔を覗かせている。
「男の前でそんな無防備なカッコしてたらやられちまうぞ…」
「やりたい?」
「お前みたいな女を目の前にしてやりたくないって言う奴がいるのか?」
「どうかな…リュウちゃんは、したい?」
「…やめとく。」
「……。」
無言で微笑んだこの時の笑顔は、それ迄見た彼女のどの表情よりも可愛いらしかった。
「もう少ししたら俺は出掛けなくちゃならないんだ。」
「忙しいんだね。ねえ、ここに居てもいい?」
「そのつもりでくっついて来たんだろう?やられるのを承知して…」
「サンキュー。」
エニグマでは余り話してなかったから、ジュリがどういう女かも知らない。
尤も、こんな事は特別珍しい事でも何でもない。
今迄にも、似たような女を拾ってホテルにしけ込んだ事がある。
だが、自分のアパートに迄連れ込んだのは、初めての事だ。
「一つ聞いていいか?」
「何?」
「しつこく男に追い回されてたと言ってたが、本当の事か?」
「……」
「まあ、どっちでも構わないが……。」
金も持たずクラブに入るのに、よく入口で男を逆ナンする女がいる。
大概、十五、六の未成年のガキだ。
たまに、中学生位の奴も居る。
芝居じみたやり方だな、と思ったが、竜治はそれ以上突っ込まなかった。
ジュリの目の前で上着を脱ぎだした。
横たわったジュリの表情が、一瞬硬くなった。
「心配すんな、シャワー浴びるだけだ。」
ジュリは、くすっと声を漏らし、再び笑顔を見せた。