それとなく上原に目を向けると、否定するような眼差しを寄越した。

「うちの店長は違うと言ってるようですが…」

「ワレ、大概にせえよ。ワシらが引き抜きいうたら引き抜きなんじゃい!」

相手は最初から揉めるつもりで来ている。
竜治は無言で若い男を睨んだ。

「なんや、その目付きは!親栄会が後ろに付いてるからってチンピラ風情がいい気になってんじゃねえぞ!」

吠えるように叫んだ若い男は、竜治の胸倉を掴んだ。
竜治がその手を振り払うと同時に、若い男の拳が飛んで来た。
鼻先に衝撃が走ったのと同時に、竜治の身体は壁際迄飛んだ。

「ボケ!手え出すないうたやろが!」

金田の怒鳴り声が部屋中に響いた。

鼻の奥がきな臭い。
生暖かいものが流れて来た。
手で拭うと血がべっとりと甲に付いた。

「話し合いに来たんじゃないんですか?バックに澤村が付いてるとはいえ、これでも一応堅気ですから、出るとこ出てもいいんですよ。」

「なんじゃと!」

「静かにせいいうとろうが!」

金田が竜治を殴った男に平手打ちをした。

「すんませんなァ、ワシの方はきちんと話し合いをするつもりやったんやが、若いもんは血の気が多くて。まあ、あんたさんの方も、もう少し下手に出てりゃ痛い目え遇わんでもすんだァ思いますけどな。」

あらためて金田の前に座った。

「殴られた件は別として、金田さんの方ではうちにどうしろとおっしゃるつもりで?」

ここは引いちゃいけない……

竜治は、相手が揉める事を前提にやって来た事が判ったので、一歩も引かない気構えを表した。

恐怖感は微塵も無かった。

勝てる相手……

いや、手を出してくれた分、こっちが勝ったと思った。

「ようは金で話しを付けようって事ですか?」

金田の目が薄笑いを浮かべている。

「あんたなァ、若いのにええ度胸してはるが、玄人相手にあんまり跳ねたら案配宜しくありまへんで…」

金田に止められている若い男は、今にも再び襲い掛かるような素振りを見せている。
座らせられたままの上原は、半泣きで震えている。

少しの間、金田と竜治の間に無言の空気が漂った……