心無しか久美子の身体が以前より細くなっている。

「ええ……」

「そう……お酒、飲めそうかい?」

「うん…大丈夫だと思う……」

「じゃあ、今夜は私が奢って上げる…」

久美子の前にワイングラスが置かれた。

「これ、昔の男が買ってくれたワインなんだけど、ずっと開けないでいたの…」

二つのワイングラスに、濃い赤みの液体が注がれた。

「美味しい…」

「ずっと開けないで置こうかなって思ってたんだけど…うん…まあまあだね…」

「いいの?大切にしてたんじゃない?」

「ええ、そうよ…墓場迄持って行こうかと思ってた位……」

笑いながら軽口を言うママにつられて、久美子も笑った。

「ラベル、見てご覧…1957年…それ、私の生まれた年なの…わざわざこんな物を見つけ出して来てさ…カッコ付けたつもりだったんだろうね…」

「ママがそんな年だったなんて知らなかった。」

「教えたの、久美ちゃんが初めて…こいつを開ける事は無いだろうなって思ってたんだけど……」

「いいの?」

「いいのって言われても、もう開けちゃったからね…私と、久美ちゃん…似た者同士が飲んじまうのが一番いいのかも……二年になるかい?」

「え?いえ、この間一周忌を…」

「じゃなくて、一緒にうちに来てくれたのが…」

「…うん」

「最初見た時、ちょっと怖い感じがしたんだけど、笑うと子供みたいな顔してたのが、すごく印象に残ってる……」

「そうだったかな……」

「あら、やだ。あんた自分の男だったのに…」

少し湿り気のある笑いが、二人の間を漂った。

「男ってさぁ、どうしてこう、身勝手なんだろうねぇ……」

「ほんとですね……」

「このワインをプレゼントしてくれた男も、21世紀を迎える時にこれを一緒に飲むんだ、なんてカッコ付けてたくせに……」

「別れちゃったの?」

「………」

ママが泣いていた。

「ごめんなさい、変な事聞いちゃって……」

「いいのよ、気にしないで…久美ちゃんを見てたら、何だか自分の事を思い出しちゃってさ…たまには涙位流さないと、おばさんは干からびちまうからね……その男ね…ヤクザだったの……」

そう言って、ママが微笑んだ。