凶漢−デスペラード

「河田か?!俺だ、神崎だ。どうした返事しろっ!」

(…そうでけえ声出してとんがんなよ…この番号に掛けて来たってえ事は、ビデオがそっちに届いたわけだ…)

「前置きはどうでもいい!久美子を…久美子をてめえ……」

(そう感情的になんなよ。話しは先に進まねえぜ…)

「久美子はどうしてる?無事なんだろうな?」

(ああ、勿論さ…ついさっき迄よがり狂って腰振ってたぜ…)

「河田っ!」

竜治の顔が怒りでどす黒く変色して行った。

(神崎!駆け引き無しだ。今から言う場所にお前一人で来い。いいか、お前一人だぞ。そこでお前の大事なお人形さんを返してやるよ。あっ、ビデオの手付金として一千万持って来んの忘れんなよ。)

「判った、金も用意する、一人で行く、だが先に久美子の無事が知りたいんだ。声を聞かせろ、今すぐだ!」

(なぁんだ、俺ってそんな信用ねえかなぁ…判った、ちょっと待ってろ…)

暫くして河田の声とは違う、くぐもった声が聞こえて来た。

「久美子か?!俺だ、大丈夫か?すぐ迎えに行く、もう少しの辛抱だ!……」

(…り、ゅ、う、じ、さ、ん……)

久美子の声だ。

無事だった。

電話の声は、すぐに河田に戻っていた。

(お涙頂戴の御体面は後ほどと言う事で…神崎、シャブの売で使ってたマンション、覚えてるか?多摩川の近くにある白いマンションだ。その部屋に来い…)

「そこへ行けば久美子を返してくれるんだな?」

(お前がちゃんと言う通りにしてくれたらな。)

「河田、お前も腹括ってこれだけの事したんだろうから、俺も細かい事は言わん。久美子が無事だったらそれでいい。けどな、もし万が一の事があったら…」

(心配すんな、俺が今迄約束破った事あるか?ん?あるかな…は、は、は、…二、三回はあるかも……)

「ふざけてんじゃねえぞ!」

(ふざけてなんかいねえよ。俺が約束を守るかどうかは、相手次第だ。つう事で…じゃあな。)

河田が電話を切った。

ケータイを持っていた竜治の手は、汗なのか濡れていて、液晶の画面の所が耳を押し付けていたせいで跡が着いていた。