凶漢−デスペラード

後部座席が全て倒され、フラットになっていた。

そこへ押し込まれ、河田と数人の男が乗り込んだ。

ワゴンはタイヤを軋ませ、急発進した。

叫び声を上げようにも、あっという間の事でどうにもならなかった。

久美子を取り押さえている若い男が、盛りのついた獣のような眼差しで見下ろしている。

両脇から抱えている手が、久美子の胸辺りをしきりに押さえている。

「手荒な真似すんじゃねえぞ!ちゃんと楽しみは取って置いてやるから心配すんな。」

河田の言葉に久美子は戦慄した。

恐怖が全身を駆け抜けて行く。

殺される事よりも、もっと恐ろしい事が……

竜治さん…助けて……

声にならない言葉をハンカチで押さえられた口の中で何度も繰り返した。

「ドライブが終わったら、楽しいひと時を過ごしましょう…」

いやぁ……

身をよじり、無意味な抵抗だと判ってはいても、あがらう事でしか、襲って来る恐怖に耐えれなかった。

河田の眼が異様に吊り上がり、唇がヌメヌメと光っていた。

久美子は眼を閉じ、その姿を脳裏から消し去ろうとした。

一時間程走っただろうか。

ワゴンが停められた場所は、殺風景な建物ばかりが並ぶ所だった。

周囲に人の住む気配は無く、辺りは漆黒の闇だった。

久美子が連れ込まれた建物は、二階建ての廃屋であった。

玄関のドアを開けると、中から更に数人の男達が現れた。

久美子の脳裏に死の一文字が浮かんだ。

一階の奥の部屋に転がされた。

畳は無く、隅にマットが敷かれてある。

「痛いっ!」

転がされた拍子に、膝を剥き出しの床に打ち付けた。

全身に男達のギラつく視線を感じた。

めくれ上がったスカートから、露になった太腿を見た男の一人が、その太腿に手を触れようとした。

「いやぁ!」

大きな声で叫んだつもりなのに、恐怖の余り小さく掠れた声しか出なかった。

「てめえ、がっつくんじゃねえ!」

河田が、久美子に触れようとした男を思い切り蹴り上げてた。

久美子は震えが止まらなくなっていた。

「お前ら、暫く向こうの部屋へ行ってな……」

久美子ははいつくばるようにして、部屋の隅へと逃げた。