「顧客の管理とかはどうしてる?」
竜治の質問に、上原は一瞬びっくりした。

(何だ、見掛けに寄らず目の付け処を知ってるじゃないか)

狡猾な者程、他人の言葉を深読みする。

「一応、会員制という事で営業してましたから、初回は身分証明書を見せて貰ってたので、そのデータをパソコンに入力してます。」
「それは今見れるのか?」
「勿論です。宜しければ、メモリースティックに落としてお渡ししましょうか。そうすれば、後でゆっくりご覧になれます。」
「そうして貰えれば助かる。」
上原は、一瞬自分で余計な事を言ってしまったと後悔した。
顧客データは、持つ人間によっては宝の成る木だ。
上原自身、顧客データを元に名簿屋に情報を流して小遣い銭稼ぎをして来た。
「それで、店の名前なんですが、今迄通りで行きますか?私的には、元のままが無難だと思うんですけど。」

『フェアリーテール』

前のオーナーは、脱税と恐喝でブチ込まれた。
そのオーナーがやってた時と同じ店名で営業するのは、何と無く芳しく無い気がする。
竜治はそう思い、上原に伝えた。
「今迄の客達にしても、中にはここのオーナーがパクられた事を新聞の記事で目にしてると思う。話しを聞けば、ここの会員は八割が年収一千万を越える人間だ。所謂、社会的地位の低くない人種だ。トラブルがあったデートクラブを、世間体を重んじる人間達が安心して利用するか?ただでさえお忍びのお遊びなんだから、その辺は俺達が思ってる以上に敏感な筈だ。」
「それもそうですね。」
「新しい名前にし、電話もそっくり入れ換えるんだ。これ迄の客には、店が新しくなった事を報せれば済む。」
「判りました。」
「それと、顧客データの他に、今迄の売上データと在籍の女達のデータもメモリースティックに入力してくれ。今からやればすぐ出来るだろう?」
「えぇ…まあ…」
上原の歯切れ悪い返事に、竜治はこの男は余り信用してはいけないと思った。