顎の辺迄引き上げた毛布から、男臭さが匂った。
不思議と不快感は感じず、寧ろ安らげるような気分だった。

この部屋の主の匂い……

何だか懐かしさすら感じた。
夢心地…とは少し違う、眠りと覚醒の狭間での彷徨……
ジュリは竜治の体臭に包まれていた。
彼の腕に包まっているような錯覚を感じてた。
寒い季節になると、ピリッとした突っ張るような軽い痛みが、左手首に走る。
寝ていても、時折その痛みが出るが、今は無い。
エニグマでは、殆ど竜治と話す機会が無かった。
VIPルームで何人かの人間と商談をしていたから、邪魔をしちゃいけないと思い、ずっとフロアで踊っていた。
竜治は、ジュリがこれ迄見て来た男達とはまるで違うタイプの男だった。
興味を抱かせるには、充分に魅力的な男だ。
店の入口で一緒になっただけの男……
確かに、一夜の宿と飢えを凌がせてくれる為の男を求めてはいた。
代償は当然、求められるものと思っていたし、ジュリには身体でしか代償を与えられない。
だが、何も求められなかった。たったそれだけの事なのに、嬉しいという感情が生じた。たまたまだけだったのかも知れない。
時間がなさそうだったから……
今夜もここに居たら求められるかも知れない。
結果は自分の身体の上に男が乗るのだけれど、ジュリにとっては、大きな違いがあった。
今夜なら、自分から抱かれたいと思うから……
浅いまどろみの中で、彼女はそんな事を考えていた。

ひょっとしたら、彼は私の呪縛を解いてくれる人間かも知れない……

久し振りに、男というものに何かを期待した。