ヤンの店の者達が竜治を助け、警察が来る前に現場を目撃した者を見つけては、しっかりと口止めをした。

竜治が襲われたと判れば、いろいろとまずい事になる…ヤンはそう判断した。

呼んだ医者はモグリの医者で、金を積めば、心臓移植だろうが人体解剖だろうが何でもやってくれる奴だった。

思った程、怪我がたいした事が無いと判ると、澤村と相談してこのマンションに移したのである。

マンションの近くには、目立たないように、澤村の若い者が車で四六時中見回っている。

屋上にも二十四時間見張りを付けた。

安全は確保出来た。

再び、竜治を襲わせてはならない。

四、五日もすると、熱も殆ど平熱に下がり、食欲も出始めて来た。

身の回りの世話は、久美子がした。

澤村は、特にその事に何か言う事も無く、寧ろ久美子にしっかり看病しろよと言わんばかりであった。

竜治を襲った男達の身元は簡単に割れた。

ヤンの手下が捕まえて来た男は、銃を撃った男では無かったが、ヤンはその男の首を切り落とした。

その首を宅配便で、尚武会の渋谷事務所に送り着けたのである。

宅配便を受け取った者は腰を抜かした。

尚武会そのものは、基本的に関東の組織とは友好的に、というのが基本方針になっている。

揉めるにしても、一昔前迄のような武力で決着というのではなく、極力話し合いで事を収めるというのが、本部からの指示である。

とは言っても、本質は暴力を生業にしている集団である。

末端の若者達は暴力でしか己の存在を組織の中で示す術が無い。

街のあちこちで小競り合いが起き始めた。

中国人同士の揉め事だったのが、その裏に隠れていた者同士の争いに広がった。

ヤンの投げ入れた生首の波紋は、いつしか尚武会本部に迄広がったのである。

竜治の回復は目に見えて早くなった。

撃たれた傷もすっかり肉が付き、塞がっている。

人の手を借りなくとも、身の回りの事は出来るようになっていたのだが、久美子が世話をしてくれているので、それに任せていた。

二週間もすると、自力で歩けるようになっていた。

その間に、状況が大きく変化した。