「だぁあっ、ホシ! 今だけ今だけ今だけ助けてやるんだからな! カマ猫!」

「助けてなんて言っていないし! ほざいてろよぉ、この犬!」


ギャンギャンワンワンニャンニャン吠えているのはモトとホシ。

モトが負傷しているホシを庇うように乱入者の相手をしている。


「恩着せがましい!」


ホシは助けられる覚えもないと言いつつ、


「ちぇ!」


舌を鳴らしてモトの体を突き飛ばし、振り下ろされる鉄パイプからモトを守った。


更に勢い余って転倒するモトを庇うように覆い被さって、再び振り下ろされる凶器からモトを守ってみせた。

瞠目してるモトに、「恩返せよ?」空笑いを零してホシが倒れる。


「カマ猫……お前ふざけるなってホシ、う゛ぁああッ!」


乱入者からの暴行で悲鳴を上げるモト。


「ゴラァア! 世話焼かすなって」


モトを助けるようにタコ沢が乱入も乱入。

向こうに吹っ飛ばす勢いで相手を殴り飛ばしている。

イカバも仲間を助けるために参戦。倒れているモトとホシを庇うように拳を振った。


あいつ等、体力と根性だけはピカイチだから……暫くは体を動かせるだろうけど限度がある。

二人だけじゃ絶対に無理だ。絶対に。



想像もしていなかった奇襲という名の惨状に慄く俺等だけど、



「ケイ!」



二階に上がってきた響子さんから名前を呼ばれて我に返る。


首を捻れば、響子さんが帆奈美さんの腕を引いて俺達の下に駆け寄って来ていた。弥生やアズミも一緒だ。


女性群はどうにか一階の混乱から脱出して此処にやって来たようだ。

俺達の前で立ち止まるや否や響子さんは、「応援を呼ぶぞ」矢継ぎ早で喋る。


「こりゃ決着どころじゃねえ。外部の仲間を呼びに行かないと全滅だぞっ……チッ、そろそろ二階にもやって来そうだな」


一階に目を向けて響子さんは舌打ち。

とにかく誰かが外に出て携帯なり、直接助けを呼ぶなりしないと、このままじゃ不味い。


「携帯!」


アズミはココロに携帯を返すよう言う。

応援を呼ぶから、その言葉にココロは素直に携帯を手渡した。


だけど此処じゃとてもじゃないけど、携帯を掛ける暇なんてない。


響子さんは二階の窓から外に出るぞと皆に指示。


この時ばかりは向こうチームもスンナリ言うことを聞いてくれた。

事態が事態だ。協力しないといけないことくらい謂わずも、なんだろう。


俺達は揃って二階フロアの大型機械陰になっている窓辺に向かう。


途中走ることが苦手なココロが遅れを取ったから、速度を落として俺はその手を掴み一緒に走った。


彼女の手が恐怖に震えていることくらい、そして俺の手が恐怖に震えていることくらい容易に伝わり合ったけど、お互いに何も言わなかった。言えなかった。


怖過ぎて『怖い』なんて単語を安易に口にできる状況じゃなかったんだ。


日陰になっている埃に汚れた窓を開ける。


このままダイブ、は怪我をする。


けど幸いなことに向かい側に背丈の高い木が見えた。

これを伝って下りれば怪我をせず地上に立てるだろ。古い雨樋(あまとい)も見えるから、両方を上手に使えばうん、大丈夫。きっと下へおりられる。


木の枝も太そうだから人間が乗っかっても大丈夫だろ。


折れたら、運がなかったということで……ははっ、笑えねぇ!


下に敵がいないかどうか十二分に確かめて、まずは弥生がぴょんっと窓枠に足を掛けると雨樋と使って木に飛び移った。

次に帆奈美さん、同じような動作で木に飛び移ると下へとおりて行く。


「こ、こわっ」


アズミも震えながら雨樋を伝い、木に移ってぎこちなく下りて行く。


次はココロなんだけど、惨状を目の当たりにしたせいか足が震えている。

自力で下りる気持ちは持っているんだけど、足取りが覚束ない。


ちょ、落ちないでくれよ、ココロ!


さすがに俺もスーパーマンじゃないから、飛んで助けることは無理なんだぜ!


所詮はヘーボンマンなんだからな!