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「出席を確認するぞ。相本、石田、岩城」


あ、出席確認が始まった。

担任の前橋が出席を取り始めている。


こうやって超真面目に朝のSHRに出席する度に、俺は大きく溜息をつきたくなる。


何故なら出席を確認のために、『あ』から名簿順に読み上げられていくんだけど、『つ』の順番が回ってくる度に仲間がいないことを思い知らされるんだ。


このクラスにいる頭文字に『つ』の付く苗字の奴は一人しかいない。


『つ』は土倉肇のつ、俺のクラスメートで俺等の大事なチームメート。


担任の口から入院していると聞いたんだけど、よく分からずじまい。


分かるのは彼が重傷だったということだけ。

何処の病院に入院しているか、担任に聞いても顔を渋らせるだけ。


どんな容態でいるのか……目を覚ましたかどうなのか、俺達には一切情報が入ってこない。弥生の情報網をしても掴めないなんて。


どんだけ向こうの弁護士様の権力が強いんだ。


だけど俺達は信じている、ハジメは必ず戻って来ると。

その内きっと俺等に連絡をして、『暇だからそっち行っていい?』とか言って、たむろ場にひょっこり顔を出すんだ。


信じているよ、ハジメ。


お前は黙って姿を消す奴じゃない。

敵に利用されない道を選んだ強いお前だ、今度こそ弥生に告白するためにチームに戻ってくるよな。


じゃないと誰かに取られちまうぞ。


ワタルさんが「狙おうかなっぱ」とか言っていたくらいだしな(完全に煽り発言だけどさ)。


能天気に時間を過ごしていたら、ホイホイっと男に取られちまうって。


もっとも、彼女は他の男なんてアウトオブ眼中。

お前の帰りをただひたすらに待っている。


あんなに大泣きして「嫌い」と「好き」を交互に口にしていた弥生だけど、お前のこと、やっぱり嫌いになれないみたいだ。



弥生は言っていた。

ハジメを甚振った女を必ず引っ叩いてやる……と、愛されているねぇ、お前も。


ハジメ、今日もお前の大好きな弥生は朝のSHRをサボって情報収集に出ているよ。


さっきメールで情報収集に出るから遅刻する、そんな内容が届いたんだ。


犯人を焙りだすために夜分遅くから、早朝から、誰よりも働いている。

よっぽど悔しかったんだろうな、大好きなお前がズタズタに傷付けられてさ。


それにしても……ハジメを甚振った奴等は何処のどいつなんだ?


あの雨の夜、ハジメを甚振っただけじゃなく、俺等の神経を逆立てするように画像を送りつけてきやがって。


ハジメの名誉のために各々メールは削除したけど、彼を侮辱した怒りは消えることを知らない。俺がここまで怒りを感じているんだ。


長い付き合いのヨウ達は俺以上に怒りを感じている筈。そしてハジメに想いを寄せている弥生も、随分と憤っていた。


頬杖を付いて俺は窓の向こう、広がっている青い空を見つめる。


ハジメ……お前の仇は絶対に取るからな。


俺は不良らしからぬ不良だし、喧嘩も弱っちいけど、俺と同類のお前がここまで男を見せたんだ。
俺も男を見せるよ。お前の仇はチーム一丸となって取ってやるから。今はゆっくり体を休めてくれ。


(そしてまた再会して、思いっ切り遊ぼうな)


お前と、また笑って遊びたい。学校生活を満喫したいよハジメ。


朝のSHRが終わると、俺は教科書や筆記用具を取り出して席を立つ。


これから移動教室だ。

ちゃんと授業に出席するために、俺は教室を移動するつもり。


チームのことはあるけれど、俺も一端の学生。出席日数を稼いでおかないと進級に響く。


出席日数は多分、大丈夫……だよなぁ。

俺もおさぼりが目立ってきたからなぁ。

留年したらどーしよう。マジで焦るぞ。


母さんにも殺される。

どうしよう、マジどーしよう。


心中で焦燥感を感じながら廊下に出ようと移動を開始。



ドン。

ぼんやり歩いていたせいかクラスメートとぶつかった。


「あ、ごめん!」


俺はぶつかったクラスメートに謝罪。

ぶつかった相手は比較的大人しそうな女子だった。



名前は確か島さん、だっけな?


島……えぇえっと下の名前が分からん。



ちっとも思い出せない。

タイプ的には俺と似たり寄ったりの地味っ子さんだったよーな違ったよーなー。


んー、記憶に薄っすらぼんやりいるようないないような。


大変申し訳ない……基本的に地味っ子は存在が薄いから顔を覚えるのに苦労するんだ。


地味ちゃんな俺が言えたことじゃないけどさ。


あーあ、俺とぶつかったせいで、島さんの筆記用具やら教科書やらが散らばっている。


俺の方は全力死守したから大丈夫だったけど。