そんなこんなで数日、俺等のチーム内は荒れ狂っていた。


誰もが苛立ったり、悲しんだり、辛酸を味わうような顔を作っていたり。


特に弥生はハジメの容態を気にしているのか、たむろ場に顔を出しても口数は少なかった。


誰よりも弥生に会わせたいのに、なんてこったい。


ここで親が出てくるなんて、しかも金と権力の力で病院を移されるなんて、大人の汚い面を垣間見た気がする。予想だにしてなかった、こんな未来。


あんな親を持つと、ハジメも捻くれたくなるよな。

不良にもなりたくなるよな。


うん、納得。


このまま一生この空気が続くんじゃないかと俺は懸念してたんだけど(空気が重いのなんのって集まっても全然会話がねぇ!)、空気を打ち崩してくれたのは弥生だったんだ。


チームのムードメーカーの弥生は弥生なりに、チームの皆を気遣わせたくなくて、


「きっと戻って来るよ!」


ある日、俺達に元気よく宣言。笑顔を振り撒いて、大丈夫だと明るい空気作りに努めていた。



「だってハジメ、あんなにボロボロな状態でも戻って来たんだよ?

だからきっと、戻って来るよ!
一旦離脱するだけって言ったんだし……元気になって、おどけた口を利きながら私達に『やあ待たせたね』とか言うんだよ。

それまで私達で頑張らないと!

……そうだよ。ハジメをあんな風にした奴等を探さないと。

そして、とっちめてやるんだ。ハジメの携帯に出た、あのクソ女に私、張り手を食らわせてやりたい」


引っ叩いてやりたい、笑顔を作っていた弥生は一変して涙声。

それでも笑顔を崩さないよう頑張っていた。



こうして弥生が空気を打破してくれたおかげで、チームもいつもの空気を取り戻して当初の目的を見定めた。  



そう、対立している日賀野チームへの決着。

ヨウも俺達も一連の事件は向こうチームが関与しているんじゃないかと推測していたんだ。


以前、ハジメは喧嘩の腕の無さで狙われたんだし、それをよく知っているのは向こうチーム。


こっちの神経を逆立てるようなゲーム感覚の喧嘩を贈ってくれたんだ。奴等に違いない。


分かっていたからヨウは言ったんだ。


「終わらせよう」と。


「もう……なあなあにして決着を先延ばしにするのはやめよう。先延ばしにすればするほど、この対立は周囲に茶々を入れられるから。ヤマト達と決着をつけよう。因縁の関係に終止符を打つ時が来たんだ」


そう語るヨウの眼差しは強い光で満ちていた。


必ずハジメの仇をとる。


そう言わんばかりの光を瞳に宿らせて、ハジメの事件と平行して日賀野大和達を討ち取る準備をすると俺達に告げた。


皆はそれに賛同していたし、俺も異存はなかったけど、その前に俺は舎弟として舎兄にやらなきゃいけないことがあるみたいだ。



分かっちまったんだ、ヨウが無理していることが。



人前じゃ一切弱音と本音を見せない、リーダー面しているヨウが……実は誰よりも無理しているんだって分かっちまった。


ハジメのことを想っている弥生は散々気持ちを吐いてたから、幾分マシになっているみたいだけど、ヨウはそうじゃない。


ハジメの無残な姿を目の当たりにしても、気持ちを吐くことはなかった。


あいつは過度なまでに物事を背負う一面があるから、無理をしているんだと分かっちまった。雰囲気で、なんとなく、な。 


ヨウの無理をしている様子に数人は気付いていたみたいだけど(シズとかワタルさんとか響子さんとか)、敢えて口を出さず、舎弟の俺に仕事を託してきてくれてるみたい。


自分達は一切口を出そうとしなかった。


ああ見えてヨウもプライドが高いからな、簡単には弱さを曝け出さないだろう。


チームのリーダーだと念頭にもあるから、皆の前じゃ強がりたいのかもしれない。


だから俺はメンバーがいない、それこそ二人きりになれる時間を探すことにした。