ホーホケキョ。


俺の中で唖然ウグイスくんが鳴いた。


え、何? 今、なんで利二の名前が……ちょ、もしかして舎兄失格と言った勇者って。


あわあわと口を開閉させて、動揺をどうにか押し殺す。生唾を飲んで恐る恐る聞いた。


「利二が起こしたのか?」


否定して欲しい気持ちで一杯の俺に、


「五木から聞いてね?」


意外だとヨウに聞き返された。


な、何も聞いてねぇよ!


今日利二に会った記憶をめぐらせても、普通に体調の心配と世間話その他諸々をしただけでっ、そんな話、一言も飛び交わなかったけど!



ちょ、利二! お前、平和主義ジミニャーノに属しているくせに、なんで自ら進んでヨウに喧嘩を売っちゃってるわけ?!


君、学校一恐れられている不良さまに何言ってくれちゃっているの?


愕然とする俺は危うく手に持っていた割り箸を落としそうになった。それだけ驚きが大きかったんだ。ヨウはポツポツ話を続ける。


「あの時の五木、ケイと喧嘩した並みに迫力があった。相手が誰であろうと、伸してやる殺意を抱いていた。


実はさ、ケイの家に見舞いに行った日。
俺とシズは五木に会っているんだ。ケイの行方を知るために。


その時、俺達がケイのことを疑っているって知って、五木に一喝されたんだ。そして後日、五木は俺達の元を訪れてこう聞いてきた。


『荒川さん。貴方は先日、田山を疑っていましたが……正直に答えて下さい。貴方は田山をどう思ってるのですか?』


どう思っているか、俺は普通にダチで舎弟と答えた。五木はそれに関しちゃ何も言わなかった。

けど次の問い掛け、『今まで田山の何を見てきたんですか?』に、何を見てきただろうな……なっかなか答えられない俺がそう呟いた瞬間、五木は激怒。

怒鳴りはしなかったけど、静かに怒り狂ったケイのことを舐めていると悪態ついてきた」



『田山は貴方の舎弟になった日から、今までずっと貴方の舎弟として何が出来るか、自分なりに考えて行動を起こしてきました。

あいつは喧嘩なんてできませんし、不良でもありません。傍から見ればダサい奴と思われがちです。


だけど舎弟として、些細な事でも真剣に考えて行動を起こしている。

貴方の足として、舎兄の顔に泥を塗らないようにして、苦悩しながらずっと貴方の舎弟をしてきた。


自分はその姿を近くで見ていたのでよく知っています。

舎弟のことで自分と喧嘩したこともありましたし、一方で相談にも乗ってきました。無理して馬鹿して怪我してっ……見ていられない時だって多々ありましたよ。


今回だってそうだ。
田山は無理に無理を重ねた。詳しい事情は知りませんが、現に田山は体調を崩している。それでも田山は貴方達との友情を取っている。


なのに貴方は田山を疑った。数日、連絡が取れない、それだけの理由で信じることさえしなかった。

田山の努力は何だったのか……これじゃあいつの努力が報われません。
田山の努力さえも見えていなかったのなら、貴方は舎兄失格だ。常に舎弟として何ができるか考えていた田山に、貴方は相応しくない。


自分は今の貴方を田山の舎兄だとは認めません。認める価値もありません。


今の貴方では田山の舎兄に向いてません――そうやってあいつを苦しめるだけなら、いっそ舎兄弟を白紙にしてチームから抜けさせてやって下さい。

それがあいつのためです。努力している田山があまりにも哀れです。貴方の舎弟にいる価値もない』




「――すげかった、あの時の五木。あんなにはっきりと俺に物を言うなんて……よっぽど腹立たしかったんだな、五木。


憤怒した五木は言うだけ言って帰っちまった。

あれから一度も口をきいていないし、向こうが極端に俺を避けちまっているし。


さっきもそうだ。俺が教室に入っても、素知らぬ顔で文庫本を読んでやがった。


どこ吹く風っつーの? 俺のこと無視だぜ、総無視。

五木って地味のクセに、意外と男気のある奴なんだなって分かった。少し腹が立ったけど、全部本当のことだった。五木の言うとおりだった」