俺は皆の顔色を窺った。


はは、みーんな嫌そうな顔してやんの。


皆さん、フッツー授業は全部出るものだろ?

そう思う俺はオカシイか? オカシくないよな? 俺は普通だよな? 普通の男子校生だよな?


みんなの嫌そうな態度(俺はそんな態度とってないからな!)に、須垣先輩がワザとらしく肩を竦めてきた。


「やっぱりそんなものか。あそこまで僕等に啖呵切ったっていうのに、していないと証明もしようとせず尻尾を巻いて逃げる。
さすが落ちこぼれくん達。疑われても逃げるしかできないなんて。その乱れた服装は君達の愚かさを象徴したいだけなんだろうね。負け犬だよ、君達は」


ンッマァ! ほんとっ、人の神経を逆撫ですることがお上手!

そんなことを言えばどうなるか、馬鹿だって分かるぜ! ホラぁ……隣を一瞥すればヨウの不機嫌度がまた上がってる。


「テメェ……マジ腹立つんだよッ!」 

「もう我慢できないなぁーん。生徒会長さん。僕ちゃー……俺サマ達に喧嘩売りやがって。ウゼェんだよ」 


ヨウに続き、ワタルさんがニヤつきながら机を蹴り倒して腰を上げた。

俺も生徒会役委員の皆様も超ビビッて声も出ない。

ついでに泣きそう。マジ泣きそう。


だってあのワタルさんがキレ気味なんだぜ。恐いってものじゃない。

恐過ぎて泣き喚きたいって。

取り巻くオーラが須垣先輩以上に黒いし。


「それじゃあ見せてくれるかい? 君達がしていないという、その態度を」


それでも平然と笑っていられる須垣先輩は凄すぎだろ?! あんたの肝、少しでいいから俺にも分けて欲しいくらいだぜ!


てか、駄目だ駄目だ。

須垣先輩の挑発に乗ったらこれ以上の厄介が降り掛かってくるって。


ただただ一週間授業に出席すればいい話なんだろうけど、その一週間、平穏に日々を送れるとは思えない。

ここはプライドを捨てても乗らない方がいいと思うんだ。

少し冷静になって考えてみれば俺達の疑いはすぐ晴れると思うんだ。


だってやってないんだし。少しの間、投げ掛けられている疑いの眼を我慢すればいいんじゃないかと思うよ、俺は。



「一週間だな」



どすのきいた声でヨウが唸る。

お、おい、まさか、ヨウ……お前、挑発に……バカバカバカ! 乗るな、須垣先輩の思うツボだぞ!

俺はともかくお前達が一週間授業を真面目に受けられる筈がないだろ!


俺は自信を持って言えるぞ!


「あー分かったわかった。見せてやろうじゃねぇか。俺達全員、テメェの案に乗ってやるよ。それで文句ねぇだろうが」


嗚呼、言っちまった。やっちまった。マジかよ、ヨウ。


「そん代わり、俺サマ達が犯人じゃなかったって分かったその時は覚悟してやがれ」

「あそこまで言われちゃこっちだって腹が立つもの! やってやるわよ!」

「面倒だけど方法がそれしかないなら、やるしかないなー」


ワタルさんも弥生もハジメも見事に先輩の挑発に乗せられたようだ。


不良は『落ちこぼれ』とか『愚か』とか『遠吠え』とか、そんな単語以上に『負け犬』っていうのが許せないみたいだ。


特にヨウとかワタルさんは喧嘩では勝ち組。

『負け犬』なんてプライドを傷付けられるような単語は聞き捨てならないんだろうな。


でも大丈夫なのかよ。一週間なんて。

大きく溜息をつく俺を余所に須垣先輩は決まりだと手を叩いた。



「それじゃあ一週間、君達の」


「おい待てゴラァアア。一つ俺から言いたいことがある」



須垣先輩の言葉を遮るようにタコ沢が口を開いた。

青筋を立てているタコ沢が小刻みに微動している。


どうしたんだ? タコ沢。