「冬矢、帰ったよ」

翌日、洋子は店へ帰ってきた。
冬矢は店の奥のテーブルで帳簿を記帳していた。

「…………あ、ああ」

ぎくしゃくした返事。
洋子は冬矢の向かいの席に座る。そしてにこやかにほほ笑んだ。


「告白したよ」

「そうか……」

鉛筆を動かす手が止まる。


「振られちゃった」

「……だろうな」

冬矢は何も言ってこない。
洋子は大きく息を吸い込んで、満面の笑みを浮かべた。

「おかげでサッパリしたよ」

「……そうか」

冬矢はちらりと洋子を見た。洋子の表情はいたって晴れやかだ。



「でも、失恋休暇は欲しいな。傷心旅行ってことで山に帰ってみたい」

「……戻ってくるのか?」

「寂しい?」

「別に……静かになるから気楽だと思っただけだ」

「素直じゃないなぁ~」


にっこりと、洋子は笑っていた。
冬矢も、少し笑った。

大丈夫。
きっと、彼女の中でかたがついたのだろう。
もう何のわだかまりもない。


彼女は彼女なりの完結をした。
多分、それで十分だ。