今日は、花宮陽の誕生日。本来ならば周囲に祝福され、充実した幸せな一日になるはずなのだが、その一日が終わった時、陽はイラついていた。

学校に行けば親友の千夜に祝福され、部活の尊敬する先輩にも言葉をかけてもらい、烏丸にもプレゼントをこっそりもらった。洋子にも店に寄った時に冬矢と、外出から帰ってきたすずめに祝福をされてもいた。
周囲の人に祝福され、幸せな気分に浸ってもいいはずだったが、自宅に帰り、今こうして一日の終わりを迎えた時、陽は一年で一番苛立っていた。


「父さんのバカ、バカ、バカ……」

秀明の携帯に何度も電話をかける。何度も何度もメールを送った。返事はない。反応が全くない。それが陽の苛立ちの種だった。

こうして誕生日が終わっても帰って来ない秀明。それはいつものことだったが、毎年のことながら、少しだけ、ほんの少しだけ、陽は期待していたのだ。だが、毎年のようにそれは裏切られてきた。

「…………メールしてくれたって、いいじゃんか」

電話は愚か、メールすらもない。何にも音沙汰なしのケータイ。


「もういい!」

ケータイを投げおいて、陽は家を飛び出した。ケータイなんか持っていても無駄。どうせ着信はないのだから。それなら足で探そう。探し出して、朝帰りの原因を突き止めてやる。突き止めて、殴ってやる。

ビンタではなく、グーで。
一発では済まさない。三発くらいは殴る。


それくらいの怒りをため込んで、陽は家を飛び出した。