血相を抱えて甲板を走り去った桃を見つめて、斎藤は小さな吐息を吐き出した。
その吐息は白く風に流れていく。
沖田さんを慕うあんたを、それでも私は欲するんだろう。
自分にはない何かを求めて。
***
「山崎さん!」
「ぅ、ぁ、斎藤さんの阿呆……」
船の奥の部屋、多分ここだと扉を開けば、簡易ベッドに横たわる山崎さんがいた。
狭いその部屋にはあと島田さんや尾関さんがいる。
みんな私が急に入って来たことにビクリと肩を揺らしていたけど、今はそんなこと関係ない。
なにもかもお構い無しに山崎さんの元に駆け寄って
はりたたきたい気持ちを必死に抑えて上から睨んでやった。
「なんで口止めするんですか!
なんでこんなことになったんです!
このまま会わないつもりでいたんですか!?
じゃあまた、っていったのは山崎さんじゃないですか!」
ばか、ばかばかばか!!
頭からズバッとやられちゃって、いっちょ前にガーゼと包帯でぐるぐるにまかれて、
死にそうな顔なんかしないでよ!!
「桃…」
「触らないで下さいっ」
「ぇ、まだ口づけしたこと怒ってんの」
「当たり前です。これからもじわじわやり返すつもりです」
「ぅわぁ…ちょ、はやく死なせて」
伸びてきた手をはたいて山崎さんの胸に抱き着くと山崎さんはぐえっと苦しそうな声を出した。
「死ぬんですか」
「どうやろう」
「死にそうですよね」
「せやなぁ」
「許しませんよ」
「ははっ」
島田さんや尾関さんが私をとめたけど、山崎さんがこのまま、と言ったから
私もそのまま山崎さんの胸にしがみつくように抱き着く。

