「ちょうど一杯あまっててよかったです、どうぞ」
土方さんの前に差し出したそのお茶は、源さんの分。
源さんは鳥羽伏見の戦いで戦死したと聞いた。
聞いていたのに余分だったそのお茶を、土方さんはわかって飲んで下さったんだと思う。
悲しんでる暇なんてないことくらいわかってるけど……、
「おい顔が窶れてるぞ菅野、そんなんじゃ江戸に行く前に倒れちまうんじゃないか?」
え、江戸?
土方さんはお茶をぐいっと一口含んでニヤリと笑った。
「酷いですよ土方さん!」
「いやそれよりも江戸ってどういうことだ」
あ、あの原田さんに、それよりもって流された!
ガクッとうなだれると沖田さんの手がポンと肩に乗っかった。
沖田さん慰めてるつもりなんだろうけど顔がにやけてますよ。
寂しがる隙も与えてくれないというわけですね。
「10日に、二隻の軍艦が天保山から江戸へ発つ。」
「それに乗って、江戸に帰った上様を追い、私達も江戸に行こうと思うんだが、皆はどうであろう」
土方さんの次に、近藤先生がやっと話しだした。
二隻の軍艦って、つまり船のことかな、それなら楽に江戸に行けるんだろう。
「……江戸ですかぁ、久しぶりですねぇ」
私の肩から手をおろし、しみじみと何かを思い出すように沖田さんが言った。
そうだよね、沖田さんは江戸出身で、全然帰ってらっしゃらなかったからきっと思うこともあるんだろうな
「悪くないな」
「ああ、悪くない」
永倉さんも原田さんも、きっとそうなんだ、
「じゃあ、決まりだな」
久しぶりに土方さんのキレ者顔を見れた気がした。

