─体育館に緊張が走る。


まだ勝負は始まっていないのに、俺の心臓はいつもより随分と早い音を刻む。


ドクン、ドクン…


麻子が、じっとゴールを見つめる。


ドクン、ドクン…


俺も、麻子をしっかりと見つめ、体勢を構える。


ドクン、ドクン、ドクン、
ドクン…っ!



麻子が、走り出した。


…来るのは、右か、左か。

必死に麻子の目から、次の動きを読み取ろうとする。


…左だ!

俺はディフェンスの体勢を左寄りに構え、迫り来る麻子の進路に憚る。

麻子は左に体を揺さぶったかと思うとすぐに右に回転し、また左にと素早く体を変化させる。
俺もそれに合わせて…いや、それより先に次の動きを読んで、麻子の分厚い壁になる。

奪うチャンスがあればボールをはたこうとする俺に、麻子は麻子で、巧みな体使いで俺をかわそうとする。


─意地の見せどころだ。