パスを出して、パスがかえってくる。
…それだけで、どうしてこんなにうれしいんだろう。
両チームとも、なかなかの接戦で…点を取られては取り返す。
汗で滲んだ視界。
俺の頭の中に、ふとゎ自分のカバンの中の…焦げ茶色の塊の存在が浮かぶ。
─親父の、バスケットボール。
走りよって急いでカバンをこじ開け、それを取り出した。
─親父の、最後の試合のボール。
ゲームから抜け出たように立ち尽くす俺の背中に、みんなの視線を感じてふりかえる。
「これでしても…いいかな?」
手の内に、穏やかに収まる丸い光。
俺の呼び掛けに、みんなそれぞれに頷いた。
…親父の、
そして、俺の、
最後の試合を見届けてくれ。
焦げ茶色に輝くバスケットボールは、体育館の床に何回も跳ねては、投げられる。
「……元也!」
俺に、パスがまわる。
そして俺は、
その″ボール″を、
俺の全ての力を込めて…
ゴールに、投げた。



