─窓から控えめに顔を出す、緑が眩しい。


「麻子、これは?」

「ん〜…持ってこうかな!」

それに入れといて、と一番右の段ボールを指差すと、麻子の顔はまたすぐに奥の部屋へと引っ込んだ。

段ボールの箱で溢れかえる一室。

着々と物が消えていくその麻子の部屋で、取り残されたカーテンはなんだかとても寂しげに舞っている。


「麻子!そろそろ休憩にしたら?」

任された荷物を段ボールに詰め終わった時、ちょうど階段の下から赤いエプロンをまとった麻子の母親が姿を現した。

軽く会釈をすると、崩れたように優しく微笑む彼女。

階段の下からは、甘い匂いがふんわりと漂っていた。


「…ごめんなさいね、あの子ったら元也くんにまで手伝わせちゃって」

「いえ、俺も暇だったんで」

手招きされるとおりに階段を降りていくと、甘い香りが一層に濃くなる。


「元也くん、ケーキとか好き?焼いてみたんだけどよかったら」

「あ、はい!喜んでいただきます」


意気込んで答える俺にまた笑みをこぼす彼女は、やっぱりなんとなく麻子に似ていた。


「それにしても、」

「……?」

「麻子にこんな男前な彼氏ができて嬉しいわ」


ふふ、とからかうように笑って、麻子の母親は台所へと姿を消す。

棒立ちになったままの俺の真後ろ、軽やかに麻子の足音が追いついた。


「元…どしたの?」


目を丸くして首を傾げる麻子。

「顔赤いよ?」

「…別に」

「ふーん…あ!"お猿さんみたいですね"」


…それ、昔俺が言った台詞じゃねえか。

まだ根にもってやがったのかと睨みつけると、麻子は楽しそうにクスリと笑った。


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