「クラシックとかがいいわね、落ち着くし。有線とかあるんでしょ?」

 その問いには答えずに佳織は操作パネルへ向かった。
 有線のスイッチを押し、チャンネル表を眺めた。

 ・・・不思議と落ち着いていた。

 目的のチャンネルに合わせると、なんとも場違いなクラシックのバイオリンの音が流れてきた。

「いいわね・・・。すごくリラックスできるわ」

 女が目をつぶって、あごを上げたまま音に耳を澄ましたのを佳織は見逃さなかった。

 チャンネル表でかくすようにしながら携帯を右ポケットにすべりこませた。

 そのまま女の横をすり抜けて、佳織は先ほど撃たれた岩崎の1列前の席に腰を降ろした。

 左後ろを見ると、鳥岡がこちらを青い顔で見ていた。