「まだ実感ないな」
そうつぶやくと、今度はうつぶせに枕を抱いて寝ころがった。

 たくさんの仲間が死んだ。潤はただそれを見ていることしかできなかった。人はなんて弱い、そうあの時は思ったものだ。でも、それも夢のようにも思える。

 2日前のことを思い出そうとしても、まるで蓋が閉じられた箱のようにそれを開くのを心が阻止していた。それでも隙間からこぼれる映像や音や声、そして臭いは潤をとらえて離さなかった。

 トントン

 ノックがして再び母親が顔をのぞかせる。

「あのね、刑事さんが見えてるの。もし大丈夫なら、隣に来られる?」

___まるで腫れ物にさわるみたいだな

 潤はため息をつくと、
「うん、もう少ししたら行くよ」
と笑顔を作ってみせた。