「いらないなら、わたしにちょうだい。好きって言えないような子に、負けたくないの」


まっすぐに佐伯先輩の視線に射抜かれて、わたしはその場に縫い付けられたように動けなくなった。


足の裏からじわじわと、地面に気力を奪われていくような心地に、額に汗が浮かび上がる。


そんなわたしの様子を見て、佐伯先輩はくすっと笑った。


「大丈夫? 気分悪いの? 待っててね、王子様を呼んできてあげる」


そう言って、佐伯先輩は踵を返して去っていた。



王子様……?



佐伯先輩が離れていったことで手足が動くようになって、校舎の壁によろよろと近づいた。

そっと壁に手をつくと、ひんやりとした感覚が指先から伝わる。


その冷たさを求めて壁に寄りかかり、ふうっと息をついた。



好きって言えないような子に、なんて……



だって仕方ないでしょ、言ったらだめなんだよ。



だってお兄ちゃんだよ。




「須藤さん?」