戸惑っているあいだに、誰かがわたしの隣の封筒をすっととった。
ピリ、と封筒を破ったその人は、紙を見るなりさっと応援席のほうに走って行った。
そして、応援席にいたお兄ちゃんを引っ張ってきた。
お兄ちゃんはわけがわからないまま引っ張られ、ゴールまで走っていく。
そばを走っていくお兄ちゃんと目があったけど、わたしはそこから一歩も動けなかった。
「ゴール!!」
二人はあっというまにゴールして、佐伯先輩はそのまま、お兄ちゃんにキスをした。
わあーっ、とか、きゃーっ、とか言う歓声のような、悲鳴のような声があちこちからあがる。
佐伯先輩が握っていた紙が風に乗って飛んできて、わたしの顔にぺたっと張り付いた。
紙をとって、見る。
その紙に書かれていたのは
『キスしたい人』。
くしゃりと紙を握りしめて、ゴールにいる二人を見た。
佐伯先輩がお兄ちゃんから体を離して、わたしを見た。
佐伯先輩はわたしと目があうと、にこっと笑った。
その瞬間、わたしはレースを放棄して、会場から逃げた。
これ以上、二人の姿を見るのがいやだった。



