顔を上げると一瞬口をポカンと開けた華がいて、その後ろから恵美が顔を覗かせた。

「全然、臭くなんてないわよ」

ポンッと肩に置かれた恵美の手に涙が出そうだった。

「恵美……」

やっと踏み出した一歩を、

怖くて怖くてしかたなかった私が踏み出した一歩に、

優しい手が差し伸べられた気がして。

恵美が私に照れくさそうに笑っているのが嬉しい。


「まぁ、別にいーんだけどさ。サチがいいならさ」

華はそう続けた。

それはとても予想外の反応だった。

もっと『でも臭い』って騒ぐと思ってたから。

現に前はもっと騒いだのだから。

どうして?何で?

「華だってさ、サチをバカにしたい訳じゃないんだよ」

私の気持ちを察して恵美が耳打ちする。

どういう意味?

その時始業のチャイムが鳴った。