「リカコ、ちょっと位なら付き合えるぞ」

思わず僕は言ってしまった。

「気ぃ遣うなよ……」

言葉を濁した後、里佳子は横を向いた。

栗色に染められた彼女の髪の毛だけが、僕の視界で揺れている。

一限目、古文担当のホトトギスが教室に入って来た。

「ちょっと気分が悪くなったので、早退します」

突然立ち上がった里佳子は、そう言うとホトトギスの許可を待たずにすたこら教室を出て行った。

「俺、影山を送って来ます!」

殆ど衝動的に僕も立ち上がって、鞄に教科書をぶち込んでいた。

古文のホトトギスは、ポカンと口を開けたまま、教壇で立ち尽くしていた。

クラスの連中も、同じような顔でこっちを見ていた。

廊下を小走りに駆け、里佳子の姿を探した。

一年の時から隣の席で里佳子を見ているけれど、こんなふうに早退した事なんか一度も無かった。

下駄箱の所で彼女に追い着いた。