「それはそれで一つの立派な答えだと思うが、どういう大人になりたかったのかが抜けているのが残念だな」

それは自分でもよく判っていた。

何故なら、今でもどういう大人になっていいのか、よく判っていないからだ。

大体にして、大人ってどういう存在なんだ?

単純に歳を重ねればいいってもんじゃないだろうし……

「やってみたい事とかはあるのかい?」

それも特別なかった。

「今の時代、君のような若い人達が、夢を持ち難くなっている事は確かだ。それを実社会で見つけられる者も居れば、ずっと探し続けて旅をしている者も居る。やりたい事、夢、それを見つけられるかはあくまでも本人次第だが、沢山の人と接する事は、プラスにこそなれ、マイナスにはならないと思う」

「サンちゃんが、この先どんな大人に成長していくか、お母さんも楽しみなの。いい機会だと思うから、バイトの件、考えてみてね」

「はい」

「お金の為に働かなければならない時期がいずれ君にも来る。そうじゃない目的で働けるのは、ひょっとしたら最初で最後かも知れないよ」

社長さんが最後に言った言葉に、僕の心は大きく揺れ動いていた。