さよなら異邦人

強いお酒のせいなのか、ニキータの目元が潤み、呂律も怪しくなり始めていた。

案外お酒に弱いのかも知れない。

「私、日本に憧れていた。日本サムライの国、大好き」

「それは昔の話で、今じゃ刀を刺している人も、ちょんまげをしている人も居ないよ」

「違う、私が言っている意味、ここの事ね」

そう言うと、ニキータは軽く拳で僕の胸を二度ばかり叩いた。

心って意味か?

僕の胸を叩いた彼女の手は、そのまま腰の方へと下がり、身体を密着させて来た。

もう一方の手は、僕に出したグラスに伸びている。

これ以上飲ませては後が大変だと思い、僕はその手を取って、

「みんなが帰って来る前に、そんなに飲んじゃ駄目だよ。それと、ニキータ、くっつき過ぎ……」

僕からグラスを取り上げられたニキータは、不満そうに口を少し尖らせた。

「私、オトーさんにノ・キエレ・セル・ミ・ノビオって言われるより、サンジュに言って貰いたかった……」

密着度は一段と度合いを深め、彼女の体温を感じれる程になった。

間一髪……て、何が間一髪か判らないが、この時に丁度父とアニータが帰って来た。