さよなら異邦人

影山里佳子の実家は、北青山に幾つかのビルを持っていて、父親が不動産会社、母親がエステサロン、まだ三十歳にもなっていない兄貴は原宿にネットオークション専門会社を立ち上げている。

絵に描いたようなセレブな実家。

本当は、うちのような都立なんかに入って来る事自体、間違っていると思うのだが、私立のお嬢様学校には行きたくないと言って、里佳子自身がこの高校を選択したらしい。

一応、都立の中でも人気のある高校だし、自由な校風もあってか、彼女の高校生活は充分エンジョイされている。

幼稚園の頃から原宿を闊歩してきた彼女だから、表参道なんか自分の家の廊下程度にしか考えていない。

表参道の裏側は、結構複雑に入り組んだ路地がある。

最近じゃ、その辺りを裏原宿とか言っているらしいが、そんなにありがたがるもんか?というのが僕の実感だ。

うちの近所とそう変わらない街並みだし、お洒落な店が建ち並んでいるといっても、僕には無縁のものだ。

だから、里佳子のお供でその辺りを歩いていても、特別興味を引くような事もなく、ただの荷物持ちに専念するばかり。

ハナエ・モリビルの裏手にある、オープンカフェで、約束のチョコクレープを奢って貰う事になった。

竹下通りのクレープ屋でもありがたかったのに、倍はする金額のチョコクレープをナイフとフォークで食べれるとは……