さよなら異邦人

「ねえ、大丈夫だった?」

「うん、サンキューな」

小声で僕がそう言うと、彼女はにこっと微笑み、再びノートを取り続けた。

午前中は、そんなこんなでやたら慌しく過ぎて行った。

放課後、部活を引退して暇になったと年中嘆いている鈴木浩二が、帰りにちょっと寄らないか、と誘って来た。

彼の誘いは、渋谷でお茶しながら煙草を吸う事。

最近、煙草を覚えた彼だが、さすがに校内では吸わない。

僕も一度だけ付き合った事があるけれど、はっきり言って煙草を旨いとは思わなかった。

父のリュウノスケは、中学の時から酒、煙草をやりまくっていたと自慢げに言うが、僕には両方とも身体に合わないのか、まるっきり興味も湧かない。

「悪い、今日は付き合えないよ」

「なんだよ、品行方正のおぼっちゃまって柄じゃないくせに」

「マジで先約があんの」

そんなやり取りをしている最中に、里佳子が、

「加瀬ェ、行くよ」

と、廊下から大声で僕を呼んだ。

何だか、彼女の召使にでもなってしまった気分だ。