さよなら異邦人

「ややこしい話だから、詳しい事は後で話すよ」

「ほんとに?」

「ああ」

「絶対だよ」

「どうせ帰りに買い物付き合わされてんだろ、そん時にちゃんと話してやるよ」

やっと納得したのか、里佳子は先に教室へ戻った。

僕は、また邪魔者が入ると話がややこしくなると思い、トイレでアニータからの電話を待つ事にした。

アニータから二度目の電話が掛かって来たのは、二限目のチャイムが鳴り終わってからだった。

駅前の交番からで、おまわりさんが彼女の代わりに家までの道順を聞いてくれて、それを地図にして彼女へ渡してくれたようだ。

一件落着といった安堵感の後に思ったのは、父リュウノスケが最初に電話に出ていれば何の事は無かったのに、という怒りにも似た感情だった。

父に事のあらましをメールで送信し、僕は既に始まっていた二限目の授業に滑り込んだ。

黒板に数学の公式を書いていた教師は、特に僕を気に掛けるでもなく、そのままチョークを走らせていた。

クラスの連中も、黒板に書かれた数字と記号の羅列を必死に書き写していて、僕の事など眼中に無かった。

一人、隣の里佳子を除いては……。