さよなら異邦人

 父が家に連れ込んだメリンダというフィリピン女性を意識するようになって、私は初めて性というものを異性に感じた。


 それも強く、はっきりと。


 メリンダに対しての感情は、複雑なものであった。


 好意以上のものが生まれながらも、現実には父の愛人だという存在の為に、思春期の私は歪んだ感情を露にさせた。


 その発露の矛先が、どうして別な女性を意識するかに至ったかは、とうの本人である私にも理解不能だ。


 坂巻千鶴子。取り立てて目立つような女の子ではなかった。


 美人かと言うと、まあ普通位だったかも知れない。だが、時折りハッとするような表情を見せる事があり、それが他の子達に比べて妙に大人っぽく思える瞬間があった。


 彼女の事で一番印象に残っているのは、いつも彼女の身体から花の香りがしたという事。


 その頃は、その香りが何の花の香りに似ているかなど知りもしなかった。


 後になって、誰かにその事を言って、


「あの香りは、ラベンダーの花」


 と教えられて知ったのである。


 彼女が、この世を去った一ヵ月後だった。