「嘘だよ」

「う、うそぉ?」

「加瀬は紳士だったよ。ていうか、まるで子供みたいに甘えてた。ちょっと、お母さんになった気分かな」

「お前さあ、こういう状況でよくそういう嘘が吐けるな」

「ちょっとからかっただけじゃん。加瀬って、構いたくなるんだよね」

こいつが悪魔に見えて来た。

「それよか、今、何時だ?」

「夕方の四時」

「やべえ、ぼちぼち帰んなきゃ」

「まだ服が乾いてないし、雨、まだ激しいから、もうちょっといよ」

「いようよって、このまま居て何すんだよ?」

「何って、あっ、何か期待してんな?」

「き、期待って、そ、それは……」

「無いって言えるのか?」

「……ちょっとはあるかも」

「正直で宜しい。その正直さに免じて…なんてある訳ないでしょ」

こいつはまさしく男心を手玉に取るデーモンだ。

里佳子は僕の事などまるで眼中に無く、メールでもしているのか、ケータイに夢中になっていた。